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交換留学プログラム

 

留学を終えて

 「中国」、この国名を聞いて、良い印象を持つ日本人は今日一体どのくらいいるのでしょうか。尖閣諸島問題が深刻化したあとに行われた調査によると、「中国が好き」だと答えた日本人は6パーセント、さらに「信頼できる」という人はたったの5パーセントであるといいます(2012年11月末~12月初めにかけて共同通信が両国の市民各1000人に行ったインターネット上のアンケートより)。しかし今や中国の経済発展は凄まじく、できることなら共に協力・発展していくほうが良いのは誰の目にも明らかです。「関係を深めたいが、できない。」日本は今まさにジレンマに陥っています。私はそんな中国に1年間留学しました。今回はその現状や、そこで私が感じたことについて述べます。

 まず、私が中国留学を決意した理由についてです。多くの人は思うでしょう、「どうしてよりによって日本との関係が最悪な中国に行くのか」と。私も自分が恐らく少し珍しい部類の人間に入ることは否定しません。しかし今は中国に留学して良かったと思っています。きっかけは、大学1年生のときに参加させていただいた、2週間の中国短期留学プログラムです。初めに2週間中国人学生が岡山大学に来て、それを私たち日本人学生がもてなし、次にこの逆を行うというプログラムです。当時の私は経済発展が凄いという点においてのみ中国に興味を持っていました。そして一つの大きな収穫を得ました。中国人が皆、日頃ニュースでみるデモの中国人のようではないということです。私は、「きっと中国人学生は日本人に対して乱暴に接し、もし中国本土に行きもすれば、罵られるに違いない」とある種の覚悟をもって参加を決めたのです。本当に勝手な私の思い込みです。しかし、この予想は見事に裏切られました。これは私に大きな衝撃を与えるのには十分でした。私はニュースが映し出すものが全てではないということを身をもって体験したのです。以後、「彼らがどう考えているのかを知りたい。誰かを通してではなく、自分で見て、聴きたい。」この想いがどんどん強くなっていったのです。ちょうどそのころ、経済学部の田口先生からキャンパス・アジアというプログラムがあることを教えていただきました。

 次に、留学生活で得たものについて。確実に言えるのは、留学という世界を見る経験はその人の人格形成に少なからず影響を及ぼすということです。周りを見ていてもそう思いますし、私の考え方も大きく変化しました。実際にキャンパス・アジア1期生として中国に派遣されてからは、さまざまな経験をさせてもらいました。どれも、日本にいては経験することができなかったことばかりです。すべてがまさに手さぐりの状態でした。学部の事務室に行っても相手にしてもらえないこともなんてしょっちゅうです。悔しい思いもしましたが、どれも体当たりで取り組み、結果的になんとかできました。先生は私たちに、「学校に頼らず、自分たちで交渉しなさい」とおっしゃいました。誰も頼ることができない状況は私を強くしてくれたと思います。制度や設備が整った日本から発展途上の中国へ行き、適応しなくてはやっていけない環境の中で、その生活に適応するだけでなく、心の底から楽しんでいる自分がいました。

 1年間の中で、中国人に学ぶべきところも見つけました。特に、私は中国人の積極性に驚かされたことがあります。今回はそのエピソードを2つ紹介します。1つ目は、バスに乗っているとき若者が実に積極的に席を譲るということです。中国では、移動はほとんどバスを使うのですが、お年寄りが乗車するとわかった途端にさっと席を立つ若者を何度も目にしました。多くの人がバスを利用するので、その中には当然多くのお年寄りも含まれます。感動した旨を中国人の友人に伝えると、「日本ではお年寄りに席を譲らないの」と逆に驚かれました。中国のバスにも一応優先席はあるのですが、そんなもの設ける必要がないだろうと思うほど、当たり前の習慣として根付いています。お年寄りが辛そうにしていればもちろん日本の若者も席を譲るでしょうが、中国の若者の譲りっぷりが実に爽やかなのです。そして2つ目の出来事は、専門の授業に参加しているとき、生徒がかなり頻繁に発言することです。私が出席した授業は300人~400人は入る大教室で行われました。つまり、ゼミ形式の少人数授業ではないのです。前列に座っている学生以外の人の発言は教授の耳には届きません。けれどそんなのお構いなしに彼らは発言します。教授が学生に問題を出せば、学生は全体で同時に答え、教授が冗談を言えば、学生は一斉に笑います。私は日本にいるときにこのような授業を見たことはほとんどありません。この積極性は日本が見習うべきです。

 他に、習慣の違いも発見しました。例えば、中国人は親しい友人同士では「ありがとう」という言葉をあまり使いません。日本ではよく「親しき仲にも礼儀あり」とかいいますし、感謝や謝罪の言葉を口に出すことは大事だとされています。その調子で日本人は中国でもありがとう、ありがとうと言いがちです。ですがこれは中国人の友人にとっては礼儀正しすぎる、遠慮しすぎだと映ることがあるようです。親しいのだから口に出さずに心の中で感謝してくれたらいい、という考えです。他にも、お客様を迎えるとき、中国では食べきれないほどたくさんの料理で歓迎するのがよいとされています。そして料理を次から次へと勧めます。これも日本だったら、お客様がおいしく食事できる量を見極めるのが美徳とされるでしょう。

 吉林大学で留学生として生活すると、中国人でなく、世界各国の友人を作る機会に恵まれます。これは留学の大きな特徴の一つです。今では世界各国に友人がいます。例えば、サウジアラビア人でイスラム教を信仰する友人に習慣について話を聴きました。パレスチナ人の友人には、イスラエルとの争いによって無実の子供たちが多く犠牲になっていることを聴きました。たくさんの素晴らしい友人を作ることができ、私は本当に縁に恵まれていると思います。どうしてこんなに素敵な出逢いが持てたのか考えてみたのですが、いつも笑顔でいたのがよかったのかなと思います。最初は会ったら挨拶をするぐらいの関係でも、自然と私を覚えてくれて仲良くなるということが多かったです。また、私のルームメイトだったためにロシア人と接する機会にも恵まれました。異国の人と共同生活なんて、と最初は不安ばかりでしたが、意外にも生活習慣が似ていて問題なく過ごせました。逆に日本とロシア、2通りのやり方でクリスマスや正月を過ごし、異国の習慣を体験できました。彼らと話していると必ずと言っていいほど言われるのは、「日本の自動車やコンピュータは素晴らしい、日本人は勤勉で賢い」ということです。日本製品は質がよくて実用的という印象があるようです。また、パレスチナ人の友人には「僕が勉強を怠けていると、父に“日本人を見習え”って言われる。日本人は勤勉だというのは皆知っている」と言われました。こういう話を聞くと日本人であることを誇りに思うと同時に日本人として恥じない行動をしなければならないと感じます。海外では常に「日本人」として見られていると強く意識することは大切だと思います。中国人と話すと「これって日本人ならどうするの」と聞かれることが度々ありました。中国にはこれまで実際に1度も日本人と話したことがないという人が大勢いるわけで、その人たちにとっては「日本人=私」のイメージができてしまいます。つまり私の言動全てが彼らの日本人像に影響を与えかねず、逆に言えば「あ、日本人ってこうなんだ」と彼らに思わせることができるのです。私は一人ひとりに誠意をもって接することや礼儀の面など、日本人の代表として見られたときに恥じないよう心がけていました。

 こうして、世界事情についてもっと理解を深めたいという気持ちが以前より強まりました。

 そして、尖閣諸島問題について。留学した時期からわかるように、私たちは尖閣諸島問題を避けて通ることなどできませんでした。2012年9月、政府が尖閣諸島国有化することが明るみになってから、中国の反日感情はますます悪化しました。日本車・日本料理店や日系企業は相次いで襲撃されました。そして、街並みにも変化が現れました。日本料理店は看板を外す、または隠し、日本車には「魚釣島は中国固有の領土である」というシールが張られているのです。私たちは幸いにも被害に遭いませんでしたが、瀋陽領事館からは再三にわたり注意を促すメールが送られてきました。内容は、「外出はできるだけ控えること、日本語を使って大声で話さないように」などです。吉林大学のスーパーマーケットの電光掲示板にまでこのスローガンが流れているのを見たときは、一同衝撃を受けました。日本製品の不買いも盛んに行われ、実際に日本経済に影響を及ぼしました。しかし一つ言えるのは、ダメージを受けるのは日本企業だけでなく、中国側もまた然りだということです。暴動隊は日本企業を中国から追い出したいようですが、日本企業は現地で多くの中国人の雇用を生み出しているわけで、そうなれば多くの中国人は失業に陥ります。米CNNは、日本車の売り上げ激減によって苦しんでいるのは中国の中小企業や自動車販売店だと指摘しています。さらに、中国に最も多くの投資を行っている国は日本です。2011年、日本が中国へ行った直接投資は63億ドルで、これはアメリカの2倍、ドイツの6倍です。つまり、今回の事件は日本の投資家にも影響を与えています。彼らが中国に対して不安を持ち投資を渋れば、当然中国も大きなダメージを受けます。日本製品のボイコットで苦しむ中国人は確実に存在しているはずですが、表には上がってこないので、日本企業だけが被害を受けているように映ります。行政法人独立統計センターによると、68万人以上もの中国人が日本で暮らしています。(2010年12月末時点)中国人は日本で圧倒的に多い外国人です。彼らの多くも日本企業で働いていて、中国人が日本経済とのかかわりを完全に断つというのは不可能です。中国人が行うボイコットは、経済面から考えても、日本人の対中感情面から考えてもいい案ではありません。

 ここで注意しなくてはならないのは、私たちが見ている「現実」が必ずしも同じではないということです。中国と日本では報道の仕方・強調する部分が違います。国民はそれを盲目的に支持し、さらに対立を深めます。そもそも、中国は情報規制が行われている国で、私たちほど自由に発言できないし、見ることもできません。中国人の友人に話を聞くと、幼いころから戦争の映画やドラマを見てきたといいます。悪役は当然日本人です。中国人役者が演じる日本人は中国のものを略奪し、残酷なやり方で中国人を殺すのです。実際、私もテレビで抗日ドラマを目にすることがありました。中国人役者演じる日本人は乱暴で、不自然な日本語を話しています。彼らは抗日ドラマを見て育ち、日本人は残虐な奴らだという認識を持つ大人になります。さらにニュースでは政治家が靖国神社に参拝したとか南京大虐殺を認めない発言をしたということが大々的に伝えられるのです。日本人はあんなにひどいことをしておいて反省していないのか、なんてひどい奴らだ、この恥を忘れてはならぬ、となるのも頷けます。むしろこんな環境で「日本が好き」と言うことの方が難しいのではないかと感じるほどです。この文書を書いているのは2013年1月ですが、中国では今でも毎日のように尖閣諸島問題の動向がトップニュースの一つとして取り上げられています。中国が尖閣諸島問題を国家の最重要問題とみなしていると判断できるでしょう。反日デモや暴動が市民の不満解消のために仕組まれたものだという見方もあります。私たちは中国関連の報道を目にするとき、それを念頭に置かなくてはなりません。日本政府は、「尖閣諸島は日本固有の領土であって、そもそも領土問題など存在しない」という立場を依然として変えていません。しかし、これほどまでの関係悪化、そうは言っていられないのではないでしょうか。

 しかし政治の問題はさておき、一民間人として中国を見たときに、今の私は中国が好きである、中国に留学して良かったといえます。なぜか。それは、周囲の中国人との関わりによって得られた感情です。ですから私としては、中国にあまりいい印象を持っていない人こそ、是非とも中国留学を経験すべきだと考えます。何人かと聞かれ日本人と答えたことによって嫌な思いをしたことはほぼありません。それどころか日本人以上に親切だと感じることもあります。私が笑顔で話しかければ、たいていの人は友好的に接してくれました。もちろん一概に中国人と言っても色々な人がいるので、少し怖い思いをしたことがありますが、そんなのいい人たちとの出逢いに比べればごく少数でした。逆に多くの中国人は友達になれば大変親身になってくれます。多くの中国人は私に実に親切にしてくれました。これは自分で体験しなければ解けなかった誤解です。以前の私と同じように、きっと今でも多くの中国人は日本を誤解しているでしょう。「理解不足」、これが日中間の対立の大きな原因の一つだと思います。

 留学に来てみて、一個人である自分には今何ができるのか?ということを考えることが多くなりました。一人が国家同士の関係を改善するなんて到底無理な話です。しかしながら、できることが全くないというわけでもないと信じています。留学経験のある学生は、少なくとも両国の現状を自分の目で見たわけです。これは積極的に伝えていく価値が大いにあると考えます。言葉を学ぶことはもちろん大事ですが、もっと大事なのは言葉というツールを使って自分は何をするかだと考えました。今後もキャンパス・アジアなどの活動には積極的に参加するつもりです。機会があれば、「岡山」や日本を世界にアピールするような活動にも参加したいです。中国で「岡山から来た」と伝えると、日本語学科の学生以外は残念ながら知らないと言います。外国人が知っている日本の都市と言えば東京大阪京都くらいです。でもそれら以外にも日本には美しい都市が多くあることをより多くの人に知ってもらいたいです。日中は政治の面ではまだまだ多くの問題を抱えていますが、だからこそ民間の交流はより力を入れるべきです。

 ―――「日本人と付き合うのも案外いいもんだな」。近い将来、より多くの中国人がこう言う日が来ることを私は願ってやみません。

 最後に、個人的なことで恐縮ですが、キャンパス・アジアプログラムとして留学することは大変有意義なことだと思っています。まず、キャンパス・アジアと言う制度を確立してくださった先生方。「アジアという視線で世界を見る」ことを教えてくださいました。さらに、留学前の手続きや航空券の件など、キャンパス・アジア事務局の先生方には大変お世話になりました。次に一緒に留学した方々。留学初期は、留学経験者である4年生の武上さんにお世話になりました。ほぼ全く中国語ができない3人を1人でサポートしてくださいました。そして、留学後期には3年生の福本さんが4人をまとめてくださいました。私が尊敬しているところの一つですが、福本さんはいつも先を見据えて行動する方なので、事務手続きなどに関して色々とアドバイスをくださいました。そして、同期である芳川さんは、身近なところでいつも支えてもらったほか、向上心など見習うべきところが多くあります。異国の地でも岡山大学の仲間がいることで心強かったですし、ホームシックにもなりませんでした。外国で暮らしていると、生活習慣や考えが似ていて共感しあえる日本人の存在は大きいです。今では家族と同じように大切な存在です。以後も、キャンパス・アジア1期生として、アジア人として何ができるか、考えていきます。支えてくださった方々、1年間本当にありがとうございました。

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